ウィリアム・モリス(1834-96)の生涯

The Life of William Morris

ウィリアム・モリスは、イギリスにおける産業革命期の最終段階とされる 1830年代半ばにロンドン近郊で生まれ、19世紀末に至るまで、当時の世界最先端の地ロンドンで激動の時代を生きました。日本では天保の大飢饉の時期から、明治維新を経て、明治29年までの時期に相当します。

誕生から子ども時代(1834-1853)

19世紀を代表する英国の偉大な芸術家であり、詩人・社会運動家のウィリアム・モリスは1834年3月24日ロンドン郊外のウォルサムストウで生まれました。

父のウィリアム・モリス(同名の父)はシティでファイナンス業を営む実業家で、子モリスは中産階級の家庭に育ちました。1840年一家はウォルサムストウから数マイルのところにあるエピングの森に隣接したウッドフォード・ホールに移り、父の没後、1848年に再びウォルサムストウに戻りウォーター・ハウス(現ウィリアム・モリスギャラリー)で暮らしました。

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William Morris Gallery
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Burne-Jones and William Morris
(1890)

学生時代〜装飾美術へ(1853-1859)

1853年、モリスはオックスフォード大学エクセター・カレッジに入学。教会の牧師のための教育を受け始め、そこで生涯の友人で協力者となるエドワード・バーン=ジョーンズ(Edward Burne-Jones, 1833-1898)に出会います。二人はジョン・ラスキン(John Ruskin, 1819-1900)の『ヴェネツィアの石』に共感、また画家集団ラファエル前派の存在を知りました。

1855年、中世美術の勉強のため二人はフランスを訪れ、その地でそれぞれの将来についてモリスは建築家に、バーン=ジョーンズは画家になる決心をします。

翌年モリスはジョージ・エドマンド・ストリート建築事務所に入所し、親友となるフィリップ・ウェッブ(Philip Webb, 1831-1915)と知り合いました。やがてモリスはバーン=ジョーンズが師事するラファエル前派の画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti, 1828-1882)の門下生となり、画家になる志を持つようになります。

1857年の夏、ロセッティが依頼を受けたオックスフォード・ユニオンの壁画制作に参加したモリスは、ジェイン・バーデン(Jane Burden, 1839-1914)と出会って恋に落ち、婚約しました。二人の新居としてウェッブに設計を依頼したレッド・ハウスの建設が始まります。モリスは画家になる努力が実らず、装飾美術に身をささげる決心をしました。

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The Red House

レッドハウス〜商会の成功(1859-1865)

赤煉瓦の家レッド・ハウスはモリスが構想し、ウェッブが建築図面化し、内装や家具はモリス、バーン=ジョーンズは絵を描き、ロセッティも協力、仲間たちの共同作業により完成されました。この作業が契機となり、仲間たち7人の共同出資による壁面装飾、装飾彫刻、ステンドグラス、金属製品、家具の5つのジャンルを総合生活芸術とし活動する商会(モリス・マーシャル・フォークナー商会、後のモリス商会)が1861年、ロンドンのレッド・ライオン・スクエアに設立されました。

商会は1862年の第2回ロンドン万博に「ステンドグラス」と「刺繍と絵付け家具」のコーナーを設け受賞、一点制作から量産品の委託生産に乗り出すようになります。1865年クイーン・スクエアに移転、1階をオフィスとショールームとし、セント・ジェイムジズ宮殿の「武具の間」と「タペストリーの間」やサウス・ケンジントン博物館「緑の食堂」の内装等を手掛け、活動は一層活発となりました。

地上の楽園〜ケルムスコット・マナー(1865-1875)

1868年から70年にかけて長編物語詩『地上の楽園』4部作を発表、 モリスは詩人としても知られるようになりました。ロセッティと共同で1871年にケルムスコット・マナーを別荘として借ります。不眠症に悩み、薬に依存するようになったロセッティが田舎生活とジェインの看護で良くなるように願いました。最初ケルムスコット・マナーに住んだのは妻ジェインと2人の娘、それとロセッティであり、モリスの妻ジェインとの複雑な恋愛関係は3名の男女が共有する悩みとなりました。

商会の仕事は拡大を続けクイーン・スクエアの工房も手狭になり、1873年にハマスミスの西、ターナム・グリーンのホリントン・ハウスに移ります。1875年にモリス商会として単独経営に改組、1877年には古建築物保護協会(SPAB)の創設、その他一連の公演活動などにより、モリスの活動は一層充実していきました。

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Jane Morris (1865)
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Morris & Company
(c. 1890)

モリス商会〜染色やテキスタイルへの注力(1875-1889)

1875年に単独経営によるモリス商会へ改組してから、テキスタイル部門の拡大にともない、紹介の仕事はますます活発化しました。1878年にはジョン・ヘンリー・ダール(John Henry Dearle, 1859-1932)を弟子に加え、ダールはモリス没後に商会のアート・ディレクターとなりました。

1881年、中断していた染色実験を再開、テムズ川の南、マートン・アビーの工房でインディゴ抜染法を完成させました。染めに適した軟水のウォンドル川の流れる同地を見つけたのは、友人で陶芸家のウィリアム・ド・モーガン(William De Morgan, 1839-1917)で、ド・モーガンもモリスの工房の近隣に自身の工房を構えました。

染め職人トマス・ウォードル(Thomas Wardle, 1831-1909)と共同して、モリスは中世からの天然染料による染色法によるテキスタイルの制作に一層集中し、またパターン・デザイン理論の発展と実践に力を注ぎました。

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Kelmscott Press
(1898)

「美しい本」への情熱・そして死(1889-1896)

晩年になり、モリスは書物の私家版印刷工房「ケルムスコット・プレス」を創設し『輝く平原の物語』を先陣とし、1898年発行の『ケルムスコット・プレス設立趣意書』を最後とする、全53書目、66冊の書物を出版します。「書物というものはすべて〈美しい物〉であるべきだ」という願いのもとに美しい活字で、美しい用紙に印刷され、美しい装丁で製本することを実証しました。

1896年刊行のケルムスコット・プレス版『ジェフリー・チョーサー作品集』は中世イギリス最高の詩人ジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer, c.1343-1400)の『カンタベリー物語』をテキストとし、バーン=ジョーンズの挿絵、モリス自身が題扉、大型縁飾り、装飾頭文字をデザインしたもので、それはモリスの目指す中世の時代の精神を忠実に実証した集大成の書物とされています。

ケルムスコット・プレス版『ジェフリー・チョーサー作品集』の印刷が完了、糖尿病による健康不調の回復を願いノルウェーを訪ねましたが、果たさぬまま帰国。1896年10月3日、ケルムスコット・ハウスにて死去。その地に葬られ、墓標はウェッブによりデザインされました。

画像クレジット
  • William Morris aged 53, c. 1887, by Frederick Hollyer. Photo in the public domain.
  • ウォーター・ハウス (現ウィリアム・モリスギャラリー / William Morris Gallery) ... photo ©Mineko Orisaku ©Brain Trust Inc.
  • Edward Burne-Jones (left) and William Morris (right) in the garden of Burne-Jones's home the Grange, Fulham, by Frederick Hollyer. Photo in the public domain.
  • The Red House, Bexleyheath ... photo ©Mineko Orisaku ©Brain Trust Inc.
  • Jane Morris, 1865 ... photo in the public domain.
  • Morris and Company Weaving at Merton Abbey ... photo in the public domain.
  • ウィリアム・モリス『ケルムスコット・プレス設立趣意書』1898年 ... photo © Brain Trust Inc.
参考文献
  • ブレーントラスト編、鈴木博之監修『ウィリアム・モリス展』図録、1989年。
  • ブレーントラスト/能登印刷出版部編、藤田治彦監修『ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ』梧桐書院、2004年。
  • ブレーントラスト/シナジー株式会社編『ウィリアム・モリス:ステンドグラス・テキスタイル・壁紙・デザイン』梧桐書院、2005年。
  • ブレーントラスト/求龍堂編、藤田治彦監修『ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡』求龍堂、2017年。
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モリス年表
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作品解説
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モリスと日本
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